公開: 2021年4月26日
更新: 2021年6月7日
1992年、米国の2人のジャーナリストが米国社会で起きていた中流階級の没落を起こした原因となる政府の決定に関する調査を行い、それを基にした報告を1冊の書物にまとめ、出版した。
その書物の題名は、「アメリカ: 何が問題だったのか」である。2人のジャーナリストとは、バーレットとスティールである。著者らは、米国政府が、中流階級である労働者に焦点を当てた政策ではなく、国の経済発展(具体的にはGDPの伸び)を重視して、富裕層の人々の富の蓄積や、企業の収益性を増大させる政策を積極的に採用してきたことが、最終的に中流階級没落の原因になったとした。
例えば、米国内の工場では、労働組合との合意で、国際的に見ると賃金の高い労働者を雇用する必要がある。しかし、国境を越えてメキシコに工場を移せば、極端に安い労働力を使って同じ製品の生産ができる。すなわち、安い原価で同じ製品を生産し、利益を増大させることができる。これを可能とする様々な法改正が、米国内の労働者の失業を増加させ、結果として労働者を貧しくしたと分析した。また、医療保険に関する法改正や薬事行政などによって、貧しい人々の生活水準を悪くしたと指摘した。
この1980年代の米国政府の政策によって、1990年代に入ると、米国内の労働者の賃金が低迷し、中産階級の所得が減ったため、米国内の国民の所得の配分を見ると、上位25パーセントの富裕層と、下位50パーセントの相対的に貧しい人々の階層との間で、大きな差が生じ、米国社会における国民の富は、2極分化し始めていた。
特に、著者らが主張したことは、大企業が中西部の拠点都市近郊に建設した大規模工場での生産活動が、メキシコなどに移転されると、その大規模な工場の維持や生産活動に関係した様々な業種、さらに多数の従業員とその家族の生活や健康を維持するためのサービス業も、同時に必要性がなくなり、衰退する。このため、地方都市全体が崩壊する現象が、全米のそこここで見られた。このことは、高々数万人のジョンソン・アンド・ジョンソンの工場の操業を停止してメキシコへ移転したことで、ニューヨーク州の数十万規模の地方都市、ビンガムトンの経済がほぼ崩壊したことなどを指摘した。
America: What went wrong, D. L. Barlett & J. B. Steele, Mission Point Press, 2020
Cities and the Wealth of Nations, Jane Jacobs, Random House, 1984